教科書改訂とその後/中学英語

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中学では教科書が今年度、改訂となりました。

早いもので、夏休みまであと3日。

慌ただしかった新年度のスタートも、ようやく落ち着いてきたところです。

 

主要5教科のなかでもとりわけ、英語は大改訂がおこなわれ、
新年度が始まる前から、巷では教科書の内容を不安視する声のほうが多く聞かれてた気がします。

思えば2月の末、新教材を入手した時点で、
私自身も「英語はこれで大丈夫なのか?」という不安を抱いていました。

 

そして新年度が開始。

ふたを開けてみると…
「学校の英語科の先生は本当によくがんばってるなぁ」というのが、私の率直な感想です。

というのも、塾に来ている子どもたちから学校での英語の授業のようすを聞いてみると、
私の予想に反し、「英語が楽しい。」と言う子どものほうが多かった印象。

(もちろん「楽しい」に英語力が伴っているかはまた別の話です。)

特に英語という教科は、学習を進めていく上で、「楽しい」はとても大切な要素です。

そして今の子どもたちにそう言わせるには、おそらくかなりのエネルギーを要するはず。

狭い地域限定での、あくまで主観による評価ではありますが、
昨年までの中学での英語指導に鑑みた上で、そのことばが子どもたちの口から出てくること自体が、新指導要領と英語科の先生がたの指導による大きな成果のひとつであるといえるでしょう。

 

ちなみに、英語の今回の改定は、これまでの英語指導のマニュアルをいったん白紙状態し、新たに一から作成されたのでは?と思えるほどのものです。

そして、教材の準備の段階では見えなかったことで、この4か月のあいだにだんだんと分かってきたこともあります。

今年の改訂から変わって点で、私が気づいたことを。

1.論理を軸として総合的に文法を解説するのが難しい。
同じ文法の要素(用法など)が、間隔を置いて出てくる点です。学年をまたいで出てくる文法もかなりあります。
たとえば、1年生の序盤で「want to+動詞の原形」という、「不定詞」という文法(名詞的用法)が出てきます。
この時点では、不定詞の3つの方法のうち1つしか教えることができません。つまり、他の2つを教える際には、”導入”の部分の時間をまた確保しなければならないということです。そもそも原形しか習っていない段階なので、”原形”というワードを持ち出すことすらできません。教科書では「want to+動詞」になっており、三単現や過去形を習ったあとに、あらためて”原形”ということばを教えなければならないということです。
(※上記はほんの一例です。3学年の随所にこのような部分が見受けられます。)
2.中学1年生の単語の負担が特に大きい。
小学校ではすでに700語の英単語の習得が必修化されています。そして今年から、中学の単語量は1200語→1800語に増加しています。小学校習得の分を合計すると、従来の約2倍(2500語)を中学までに習得しなければならないため、単語の暗記だけでかなりの負担増です。
ただ、問題はそこではなく、小学校で単語の書きとりを必死にやっていた(先生がさせていた)クラスと、そうでないクラスがあるということ。
現在私立中学1年のひとりの子に話を聞いてみると、「(小学校の単語を)なんとなくは覚えてますが、正確にはたぶん書けません。」とのこと。学力も学習意欲も高く、さらに小2から公文式でも英語を習ってました、というその子ですら、残念ながらこのレベルの単語力です。それが現実。
そしてもうひとつ。
中1~中3の単語テストを、1年間分すべて作成し終わったあとでわかったことですが、
単語テストの枚数は、中1→81枚、中2→54枚、中3→53 枚になってしまいました。
(※1枚につき10問。固有名詞や代名詞、短縮形などのうち暗記が不要なものは適宜省いて作成。)
なぜこのような枚数の差になったかというと、教科書には『小学校の単語』として載っている単語、それも単語テストに含めたからです。要は、この「小学校の単語」の分量が、中1だけ圧倒的に多いというわけです。実際、習得が完全ではないのですから、そこを見過ごすわけにはいきません。
3.高校から中学へ移ってきた単元の分類がなかなか大変。
感嘆文』(なんて~なのでしょう!)は、会話でよく使われる表現ですし、もともと十数年前までは中学生に教えていた単元だったので、特に違和感はありません。
ただ、そのほかの文法に関しては・・・
現在完了進行形』→「現在完了/継続」との区別があいまいで、おそらく中学生には分かりづらい文法です。
仮定法』→中学では「仮定法/過去」のみを学習します。ひとつの用法だけ中学にもってきたということは、仮定法という表現を感覚的につかませる意図なのでしょうか?
原形不定詞』→原形不定詞をともなう「知覚動詞」と「使役動詞」の2つのうち、「使役動詞」のみを中学で学習します。ただ、使役動詞のなかでも使えるのは「let」と「help」のみ。
ここだけは、大いに不満を言わせてもらいます。
「to-不定詞」を使うこともできる「help」という単語がチョイスされている点がまずは少々疑問です。(「to-不定詞」と「原形不定詞」の違いを明確にしづらい。)
いっそのこと単元名を『使役動詞』にし、「make」「let」「have」という、強弱のわかりやすい代表的な3つを採用したほうがよかったのでは?せっかく使役動詞を教えるのに、そこでmakeとhaveを例に出せないのはもったいない気がします。また、「let」だけでは用例の幅が狭すぎて、プリント1枚分の英文を考えるだけで大変な作業。(私は途中でさじを投げかけました。)高校ではすべていっしょに習うことになってたので、こんな苦労はなかったはずです。
余談になりますが、あえて「二次関数」とせずに「関数y=ax2」を単元名としている数学と、英語の単元名との矛盾も個人的には感じてしまいます。
4.その他
✓教科書の構成(章)が分かりづらい。(東京書籍:「ニューホライズン」)
>>Unit 1-Scene1,Scene 2,Read and Think 1,Read and Think 2 のような章の構成。生徒に「学校でどこを習ってるの?」と尋ねたとき、「ええっと…」と言って明確には答えらえない場面が多くなりました。今、教科書のどこをやってるか、子ども自身が認識しづらい構成なのはいかがなものか?と個人的には思ってます。
✓従来の教科書と比べ、本文が長く、本文内容も難解なものが多い。
>>教科書を使用するのは、英会話教室などではなく「学校」です。文科省や出版社の意気込みは分かりますが、正直、学校の授業だけでホントにこれだけのことをやれるの?と言いたくなるような分量です。

まだいくつかありますが、ここまでにしておきます。

(正直ここまで話を掘り下げるつもりではなかったので。)

 

序盤に記述したとおり、改訂版の教科書の内容すべてに対し、私は物申したいわけではありません。

今のところ、中学に通う子どもたちの、学校の授業への反応は上々です。

ただ、教科書をベースにした教材作成の段階で、私自身、今年はすごく苦労しているのが現状。

つまり、学校の英語科の先生はおそらくもっと大変であろうということです。

現行教科書の内容に見合うだけの教材を手作りで作成するには、従来の何倍もの時間と労力が必要であることは間違いありません。
(「教材作成には絶対に手を抜かない!」という先生ほど大変だと思う。)

定期テストの作成ともなると、その難易度はさらに上がります。
(生徒の定着度をどのように測るのか。その判定基準が非常に難しいということ。)

 

教科書の構成を見るかぎり、重きを置くところは「文法」よりも「会話」

全体的に本文ベース、会話ベースで作られています。

(個人的には「シャドーイング」を使った学習法を盛り込んでいるところなど、
なかなかのファインプレーだと思いますが。)

この英語教科書の「大改訂」が正解だったのか、それとも失敗に終わるのか。

ただ、結果を明確化するのはおそらく不可能でしょう。

その点は、2000年代はじめからの「ゆとり教育」が、はたして正解だったのか否かの論争と同じ。

 

私自身、「実用的な英語力の育成」の方向に進むことに対しては、なんの異論もありません。

ただそれはあくまで、粘り強い反復によってのみ培われる「文法の基礎力」、
それなくしては絶対に身につけられない。

昨年までの教科書は、文法を体系的に学ぶための、おそらくは「最強の教材」だったといえるでしょう。(開隆堂「サンシャイン」のこと)

従来の教科書で重視されていた部分をバッサリと切り捨て(私にはそうにしか思えません)、
日本の英語教育が「会話」に走ったこと。

学校の今の授業時間数で、新教科書の構成と分量をこなすことを考えれば、
文法の定着度はまちがいなく低下するであろうことが、かなりハッキリと予見できます。

もちろんそれは、私のこれまでの経験を踏まえた上での話です。

だからこそ、塾生たちにはこれまで通り、むしろこれまで以上に、
基礎の反復による土台づくりを強化していかねばと思う、

今日このごろです。

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